ほんまその通り

 この作品について書く事はほとんどない。観てみない限りこの面白さはわからないだろうし、逆に言うと、好みは分かれるだろうけれども、観ればこの作品の魅力は絶対に理解できるはずだ。ただ言えることは、園子温はこの「地獄でなぜ悪い」という作品において、2010年代のスラップスティック・コメディのあるべき姿を提示し、または、その指標になるようなものを作り上げた。

 

 まずタイトルがいいじゃないか。そう、好きなことに取り憑かれた連中が向かう先なんてどうせ地獄だし、天国になんてよっぽどのことがない限り逝けやしない。劇中では星野源がコカインによって昇天していた。ただ、地獄に猛進する我々を誰も止めることは出来ないし、私たちはただただ輝きたいだけなのだ。

 

 思うに、園子温に制約というものを設けてしまうと、彼の魅力は激減する。彼の撮った今年のテレビドラマを観てみたまえ。もちろん、他のテレビドラマに比べれば、全然劣っていないけれども、本来の彼のポテンシャルからすると、あんなものは彼のキャリアに傷を付けかねない。まあ、夏帆のパンチラ見たさになんとか観てはいたけれど、その前にやっていた大根仁監督作に比べれば、その差は歴然だ。彼の足捌きっぷりは素晴らしい。

 

 それに比べ今回の「地獄でなぜ悪い」はどうだ。友近は血の雨を降らせるし、國村隼の首は飛んでいくし、星野源に至っては腕が飛んでいった挙句、頭に刀が刺さるではないか! しかもそれを完全なるエンターテインメントとして魅せている。今や懐かしいトリックスター村田も、今回は中国人になりきって中華料理店を営みながら、スクリーンに姿を現す。もしかしたら、次の殺戮に必要な資金をコツコツと貯めているのだろうか? それに、ブルース・リーがヌンチャクではなく刀で人を殺すというアンビバレンス! もう最高! ゆらゆら帝国も使われてるしね。

 

 やっぱり撮影を担当した山本英夫というキャメラマンの功績が大きいのだろうか? 彼は、北野武や三池崇史、はたまた三谷幸喜までが起用する、今や日本を代表する名キャメラマンだ。今作の最大の見せ場である殴り込みのシーンのダイナミズムは、彼にしか撮れなかっただろう。ちなみに、彼が関わった作品の中では、「容疑者Xの献身」がなまさかなクンのお気に入り。

 

 あとは、園子温の力によって堤真一の新たな魅力が引き出された。最初はこれ以上のびしろはないと思っていたのだけれど、あの不気味な笑顔にはやられた。ベスト・スマイル・オブ・ザ・イヤーに「あまちゃん」のピエール瀧とともに認定だ!

 

 園子温はこの作品によってハリウッドに着実に一歩近づいた。もっとヒリヒリした園子温も観てみたかったけれども、圧倒的に観客をエンターテインするこんな彼も最高だ。ただただ映画愛だけで映画を作りましたよ、深作さん。そんな作品が「地獄でなぜ悪い」だ!

 

 それにしても、ラストの「カット!」ってどういうことなんかな? 全然ちゃうけど、「インセプション」でも意識したんかな? あと、映倫よ、これでR指定ちゃうってどういうことやねん! それと、矢柴俊博をなんで出してくれへんかってん! そして、某映画芸術雑誌に嫌われても気にするな、園子温!

 

「地獄でなぜ悪い」公式サイト:http://play-in-hell.com/