数で勝負

 いや~、こういうのを待っていたんだ。近年は、様々なタイプの時代劇を撮っていたり、法廷を舞台にしたゲームの謎の映画化をしていたり、と話題には事欠かなかったけれど、この「悪の教典」こそがまさに三池崇史の面目躍如たる、堂々たる一作だ。

 

 その昔、まだ中学一年生だった僕はレンタルビデオ店で「殺し屋1」という作品を見つけた。もちろんレンタルはしなかったけれども、そのあまりにおどろおどろしいパッケージに恐れおののくと同時に、倫理観が激しく揺らぐ音が聞こえ、まだ自分には知らない世界があるのだと興奮した記憶を今でも覚えている。今思えばそれが三池崇史との、そして、映画におけるバイオレンスとの初めての出会いだった。いまだにその時期の作品群は観ていないのだけれども、その後ユーチューブにアップされていたトレーラーを観たりして、ますます彼に対する興味は湧いていった。

 

 さて、「悪の教典」だが、まずは出演人のなんと豪華なこと! 園子温の近作のキャスティングと少しかぶっているような気もするけど、まあそれはご愛嬌というかなんというか。特に、吹越満はいきなり一発かましてくれて、この作品のウォーミングアップにはもってこいだ。そして、近頃その売れっぷりが潔い山田孝之は、本作でも確かな存在感を発揮している。それに、ご丁寧にも原作者である貴志祐介氏も出演されていて、なんとも遊び心があって結構。

 

 まあ、そんなこと言っとりますが、何はなくともこの作品に欠かせなかったのは、やはり伊藤英明だろう。今年は人命救助で手一杯だったろうに、このなんともスタイリッシュでユーモラス、そしてどこかチャーミングな人格異常者を熱演している。この人以外には演じられへんよな? というようなまさにハマり役を、見事ものにしている。

 

 誰がこんなクソしょーもない話映画化すんねん! みたいな話でも面白く撮れるのが三池崇史の持ち味だと思うけれど、今回は話自体が面白いので、どう転がったところでつまらなくなるはずがない。あとは、彼お得意の暴力をどうやって映像に封じ込めるかだ。

 

 それなりにバリエーションは豊富だけれど、誰も見たことがないというよりは、どこかで誰かが見たことのあるバイオレンス。種類はそんなにないけれど、そのかわりに今回の三池崇史は圧倒的な数で勝負した、というと「リボルバー」の時のポール・マッカートニーみたいだが、要するに今の彼は絶好調だということ。それに、皆が殺される時に吐くセリフには滑稽さがあって、強烈なバイオレンスにユーモアというスパイスをふりかけるという、ちゃんと「冷たい熱帯魚」以降の感覚を意識した作りになっている。また、音楽の使い方も効果的で、よりポップな殺戮シーンを演出している。

 

 日々の生きづらさを、ちょっと乱暴だけど極めて丁寧に描いたエンターテインメント。そこからは逆説的に命の尊さが浮かび上がってくる。そして、某国民的(って誰が言い出した?)アイドルに「嫌いだ」と言わしめたのは、なんと名誉なことか!

 

「悪の教典」公式サイト:http://www.akunokyouten.com

 

 

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